エキスパートコメント

青少年のSNS利用規制

2026年04月30日

(公財)世界人権問題研究センター
プロジェクトチーム1リーダー
曽我部 真裕

 2025 年12 月10 日、オーストラリアで改正オンライン安全法が施行された。これは、16 歳未満の者によるソーシャルメディアの利用を事実上禁止する規制であり、日本でも大きく報道された。対象となるのは、TikTok、X、Instagram、YouTube など、所定の主要サービスを運営する事業者で、16 歳未満の利用者がアカウントを保有しないよう、合理的な措置を講じることが義務づけられる。義務に違反した場合、最大で約4,950 万豪ドル(約50 億円)の過料が科される。施行後の状況としては、成人向けの世論調査では8 割が規制を支持し、青少年の間からも勉強や趣味に集中できるといった好意的な反応がある一方で、規制を回避して利用を続けたり、規制対象外の類似アプリにユーザーが流れるなどの行動も見られるとのことである。最近になって、デンマーク、フランス、スペインなど他の国々でも、類似の立法を検討する動きが相次いでいる。
 他方で、各国の青少年保護政策は、必ずしもこうした方向にばかり向かっているわけではない。例えば、現在段階的に施行が進められているイギリスのオンライン・セーフティ法は、年齢による一律の利用禁止を採用していない。同法は、ソーシャルメディアや検索サービスなどに対し、青少年のアクセスがあるかどうか評価し、有害コンテンツに青少年がアクセスできないような措置をとることなどを求める。このほか、EU ではデジタルサービス法の下で未成年者保護に関するガイドラインが策定され、アメリカでも、州レベルでさまざまな立法の試みが続いている。
 一律禁止か否かという違いはあるが、なぜ近年になって、各国でこうした規制が相次いでいるのだろうか。インターネット上の青少年保護をめぐる規制自体は、以前から存在していた。従来の規制は、アダルトコンテンツなどの有害情報への対処を中心とするものであった。その後は、ネットいじめや、見知らぬ大人と出会って性被害に遭うといった問題への対応が重視されるようになった。最近の動きは、これらに加え、ソーシャルメディアが子どもや若者のメンタルヘルスに及ぼす影響や、AI など新たな技術に起因するリスクに目を向けている点に特徴がある。このテーマにおいて広く参照されているOECD のリスク分類も、2011 年に作成されたのち、状況変化を踏まえて2021 年に改訂されている。
 実際、2010 年代以降、若年層のメンタルヘルスが世界的に悪化しているとの指摘が相次いでおり、その要因の一つとして、スマートフォンやソーシャルメディアの影響が挙げられている。例えば、2023 年5 月、米国保健福祉省は、ソーシャルメディアを1 日3 時間以上利用する子どもや青少年では、うつ病や不安などの精神的健康リスクが約2 倍になるとの研究報告があるとして、注意喚起を行った。日本でも様々な研究がなされているが、例えば2024 年6 月、国立精神・神経医療研究センターなどの研究チームが公表した研究成果によれば、思春期におけるインターネットの不適切使用が精神病症状(幻覚や妄想のような体験)および抑うつといったメンタルヘルス不調のリスクを高めるとされた。さらに、インターネットの不適切使用による抑うつのリスクは女性の方が大きいこと、また、精神病症状のリスク上昇は社会的ひきこもりを介して起こることも示唆されたとのことであった。また、国立精神・神経医療研究センターなどの別の研究チームは、2025 年8 月、因果関係を推定できる厳密なデータ分析法を用いて、オンラインゲームを不適切に利用し続けると、メンタルヘルス不調のリスクが高まることを確認したとの発表を行った。
 アメリカでは、自死した青少年の遺族や、州司法長官などが、ソーシャルメディア事業者のアルゴリズム設計や運営の在り方が青少年のメンタルヘルスに悪影響を及ぼしたとして、同事業者を相手取る訴訟が近年相次いで提起され、本年3 月25 日にはカリフォルニア州地方裁判所で、メタとグーグルに責任を認める陪審評決が下された。日本ではこうした訴訟の例は知られていないが、提訴を模索する動きは存在する。
 一方で、ソーシャルメディアの利用には、肯定的な側面があることも否定できない。情報へのアクセスや他者との交流は、子どもの成長や社会参加にとって重要な意味を持つ。この点について、国連子どもの権利委員会は、2021 年に採択した一般的意見25 号において、子どもは保護される対象であると同時に、情報へのアクセスや参加の主体でもあると指摘している。そして、一律の年齢制限や過度な遮断は、表現の自由や発達の権利を侵害するおそれがあるとしている。
 では、日本ではこの問題にどのように取り組んできただろうか。日本では、青少年のインターネット利用をめぐり、利用自体を制限・禁止する考え方と、リスクを低減しながら利用を認め、リテラシーを育成する考え方との対立が以前から存在してきた。2008 年に制定された青少年インターネット環境整備法は、後者の立場を明確に採用し、青少年が安全・安心にインターネットを利用するためには、主体的に情報を取捨選択し、適切に発信する能力を身につけることが重要であるとの基本理念を掲げた。このアプローチは、憲法上の表現の自由や知る権利とも整合的であり、現在においても基本的妥当性を有している。
 最近話題となった愛知県豊明市の豊明市スマートフォン等の適正使用の推進に関する条例も、スマホの使用を禁止するのではなく、あくまで適正利用を求めるものである。家庭内のことに自治体が口出しすることにつき批判もあり、確かに運用上細心の注意は求められるが、これまで過小評価されてきたスマホのリスクを周知し、また、自治体がこの問題に積極的に取り組む根拠を与えた面はあるだろう。
 環境整備法は、①青少年有害情報へのアクセスを防止するためのフィルタリングの普及と、②リテラシー獲得のための教育・啓発を二本柱として構成され、SNS を通じた犯罪被害への対応もこの枠組みで対処されてきた。しかし同法はガラケー時代を前提としており、携帯電話会社に対しては契約時の説明義務やフィルタリングの原則有効化など重い義務が課される一方、ソーシャルメディア事業者やOS 事業者の取組は努力義務にとどまり、AI 事業者の責任は想定されていなかった。結果として、保護者と携帯電話会社に責任が過度に集中する構造が形成されていた。 
 現在ではスマートフォンが中心となり、携帯電話会社が担える役割は大きく縮小している。既存のフィルタリングは、アプリ単位の利用制御にとどまり、SNS内での有害投稿の非表示やアルゴリズムによる露出制御には十分対応できない。このため、ガラケー時代を前提とした環境整備法の仕組みを、スマホとソーシャルメディア、生成AI の時代に適合させる必要性が明確となっている。
 こうした問題意識の下、2024 年11 月、筆者を座長として、こども家庭庁に「インターネット利用を巡る青少年の保護の在り方に関するワーキンググループ」が設置され、2025 年8 月に「課題と論点の整理」が取りまとめられた。同整理は、インターネットが青少年の日常生活の基盤となり、低年齢層を含め利用が常態化している現状を踏まえ、SNS を契機とする犯罪被害、誹謗中傷やいじめ、闇バイト、消費者トラブルに加え、生成AI による性的ディープフェイクなど新たなリスクが顕在化していることを指摘した。その上で、従来のフィルタリングと教育中心の枠組みのみでは、リスクの多様化・複雑化に対応できなくなっているとの認識が共有された。
 検討の結果、一律の年齢規制ではなく、青少年の知る権利や表現の自由、インターネットが学習や居場所として持つ意義を踏まえ、ウェルビーイングを軸とした多面的・総合的対応を志向すべきとの基本的方向性が示された。具体的には、受信リスクだけでなく、発信や他者との接触に伴うリスクへの対応強化、ソーシャルメディア事業者やOS 事業者、AI 事業者を含む幅広いステークホルダーの関与、技術的保護手段やコンテンツレーティングの在り方の検討、青少年自身のリテラシー向上と官民連携による啓発の強化が課題とされている。
 その後は、この「課題と論点の整理」に基づき、各省庁において検討が進められ、筆者を座長とするこども家庭庁「青少年インターネット環境整備法の在り方等に関する検討ワーキンググループ」において取りまとめがなされる予定である。環境整備法改正の課題としては、青少年保護に関する責任主体のリバランスを図りつつ、年齢確認の制度化や事業者の自主的取組を後押しする法的枠組みを検討することが求められる。ただし、有害情報やアルゴリズムを一律に定義・規制することには困難が伴うため、各事業者の取組の実効性を評価し、関係者の意見を反映させる仕組みを構築することが重要である。
 青少年保護は効果が見えにくい分野であるが、問題意識が高まる今こそ、十分
な議論を通じて時代に即した制度を構築する必要がある。

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