世界人権問題研究センター改革ビジョン
1 総論
(1)「あり方検討委員会」の設置とビジョン策定の経緯
①2013.5策定の「中期計画」において、研究の活性化、現代的人権課題の研究のテーマ化を大きな課題として位置づけている。
②2016.2以降、マイナス金利の影響で基本財産の運用益の大幅な減少が見込まれた。加えて、2016年度から府・市の補助金が削減された。
③基本財産の運用益及び補助金の減収という条件下での持続可能な財務運営と研究の活性化の両立について議論いただくため、「世界人権問題研究センターあり方検討委員会」を設置し、2016.11~2017.7の5回にわたり議論いただいた。
④「あり方検討委員会」の議論を踏まえ、センターを継続・発展させるための方策として本件ビジョンを策定するものである。
⑤ビジョンを「第2次中期計画」として位置づけるとともに、将来的に抜本的な改革を伴うため名称を「ビジョン」とした。
(2)設立趣意書の趣旨を再確認
①21世紀は「人権の世紀」といわれるように国内的、国際的に人権に関しさまざまな問題が提起され、人権の尊重は今日、世界的な流れになっている。
②全国から人権問題の研究者を動員し、世界的な広い視野から人権問題を研究し、人権問題に対する公正で正確な理解を得ることを目的とする。
③京都は、平安建都以来、様々な外国文化を摂取し国際性豊かな文化を築きあげるとともに、人権問題に深くかかわった歴史を有する都市であり、京都にセンターを設立することの意義は大きい。
④人権問題を研究する人材を広く全国から集め、ともに研究する共同研究方式に重点を置く。
(3)センターのミッションの明文化
①新しく生起する人権課題に対応し、社会に問題提起や提言を行う。
②センターの研究の成果を生かしながら、府・市と連携したテーマの設定に努める。
③社会の人権問題への関心に留意するとともに、研究成果の分かりやすい還元(発信)に努め、ひいては府民市民の人権意識の向上に資する。
(4)民間学術研究機関としての前提条件の確保
文科省認定の民間学術研究機関であることによってセンターの研究員として科研費を申請できる利点が、研究員のモチベーションを維持しているという側面が大きいため、専任研究員の人数や研究費については、研究機関としての認定を得るための必要最低限を確保することとする。(専任研究員:5名)
(5)ビジョンの評価制度
外部委員による「外部評価委員会(仮称)」を設置し、毎年の開催を基本にビジョンの履行状況の点検を受ける。
(6)計画期間
①2018(平30)年度~2025(平37)年度
10年物債券の満期に伴う買い替えが一巡する予定の2025年度までを計画期間とし、その時々の状況の変化を見据えながら、本ビジョンに掲げる事項を、できるものから順次実行に移すものとする。
期間到来時に、「ビジョン」の達成状況、債券のクーポン(利率)の状況や事務所問題の進展などを踏まえて「ビジョン」の再検討を行う。
②移行期間
2018(平30)年度~2020(平32)年度までを旧体制と新体制が混在する移行期間として位置づけ、2021(平33)年度から全面的に新体制に移行することとする。
2 研究の活性化
(1)研究体制の見直し
①チーム編成会議
現代的人権課題等の社会的ニーズに応えるため、理事長・所長のほかに外部から編成顧問(5~6年の任期)を迎えて「チーム編成会議(仮称)」を設置し、合議により研究テーマを選定する。
②プロジェクト型チーム
選定されたテーマについて、編成顧問等の推薦に基づきチームリーダーを決定し、チームリーダーがプロジェクト型チームを編成する。
チームの基本型は、科研費採択の場合を除きスリム化を念頭に、チームリーダー1名、専任研究員1名、嘱託研究員5名とする。
③チーム数
財務状況を踏まえ合計4~5チームとする。内訳は、編成会議による合議枠として3チーム、センターの設立経過等を踏まえ所長推薦枠として1~2チームとする。
ただし、2018(平30)年度~2020(平32)年度の移行期は、科研費が採択された「研究第4部」及び寄付金によって運営されている「研究第6部」、並びに合議枠2チーム及び所長推薦枠1~2チームの合計5~6チームとする。
④研究期間
現代的な人権課題に対応するため、研究期間は基本的に3年間とし、論文等による成果のまとめを義務づける。
⑤科研費特例
科研費の積極的な取得を奨励し、科研費が採択された場合、チームの嘱託研究員の人数及び研究期間について特例措置を設ける。
(2)意見交換会の開催
チームリーダーによる「リーダー連絡会議(仮称)」を定期的に開催する。各チーム間の研究に関する情報交換を通じて、センター全体の研究の質の向上や外部資金のノウハウの共有等を図る。
(3)研究スタイル・プロセスの工夫
①長年培ってきた共同研究方式を継承しながら、柔軟で分野横断的な研究チームの編成を図る。
②現代的な人権課題への取組と発信の分かりやすさを実現するため、テーマに応じてチームの構成員(嘱託研究員等)に多様な関係者の参画を促進する。
(4)「登録研究員制度」の新設
財務の状況も念頭に置きながら、旧研究部に属した研究員や新研究チームで研究を終えた研究員等を対象に、研究員の人的ネットワークの継承と研究の継続性の確保を目的とした「登録研究員制度(仮称)」を新設する。
3 成果の分かりやすい発信
①研究のコンテンツはアカデミックであっても、社会に対する成果の還元・発信は分かりやすさが求められるため、研究論文等とは別に、府民市民に対する分かりやすく平易な発信方法・表現について工夫する。
②外部からの講演・執筆依頼についても、事前に対象者の情報収集に努め、分かりやすい発信・表現について工夫する。
4 事業の充実
(1)企画・渉外担当の配置の検討
厳しい財務状況にあることを念頭に置きながら、企業を含む社会的ニーズの把握に努めるとともに、センターの研究成果や実績を活かした企画の提案を積極的に行うことを主務とする「企画・渉外担当」の配置を検討する。
このことを通じて、企業、行政、関係機関等との事業提携や支援拡大につなげる。
(2)発信力の飛躍的向上
①ホームページにおいて、センターの財産である刊行物の内容や研究員のプロフィールの掲載などセンターが発信する情報量と検索の利便性を飛躍的に向上させる。
②発信力のさらなる向上を図るためセンター内に「情報発信検討委員会(仮称)」を設置する。
③マスメディアや行政との協働の機会を増やし、センターの“見える化”を図る。
(3)「人権大学講座」等
①「人権大学講座」や「人権問題シンポジウム」については、基本的には共同研究の成果を踏まえながら、時代に相応しいテーマ又は府民・市民・行政担当者等の受講者のニーズに対応したテーマを設定する。
②必要に応じて外部講師の登用を図ることにより、参加者数の増加と新たな参加者の獲得促進を図る。
(4)「ゆかりゼミ(仮称)」の開講
「人権大学講座」などの事業を通じて、京都の人権の歴史に関心のある層が一定数存在することが明らかになっており、この方々のニーズに応えるため、新たに会費制のゼミナールを開講する。
(5)ボランティア人権ガイドの研修
前記の「ゆかりゼミ(仮称)」などを活用しながらボランティア人権ガイドの恒常的な研修の機会の充実を図る。
(6)人権図書室の活性化
引き続き研究者向けの魅力の向上に努めるとともに、会員登録制度による貸し出し対象者の拡大など、府民・市民にとっても利用しやすい人権図書室のあり方を検討し、府民・市民の間でのセンターの認知度向上を図る。その際、新たな事業費の発生については極力抑制することとする。
5 持続可能な財務運営
(1)収入の工夫
①収入増加の努力
・センターを支援又は活用していただくための多様な形態について検討し、賛助会員、寄付企業などの賛同者の拡大を図る。
・研究費の充実を図るため、間接費による増収効果の期待ができる科研費の獲得に積極的に挑戦するとともに、各種民間助成金の獲得に努める。
②債券の最適運用
・債券の運用については、リスクとリターンを勘案した内部規定に基づきながら、最適な運用によって運用益の減少の抑制を図る。その際、基本財産の流動性を確保するなど基本財産全体の保有形態のバランスに留意する。
・債券の購入に当たっては、複数の証券会社等によるプロポーザル方式の導入等により、効果的な運用を図る。
(2)支出の工夫
①支出削減の努力
・研究機関として最低限必要な体制を維持することを条件に、研究員の給与等の抑制も含め経費の節減を図る。
・既存刊行物のデジタル化とともに、「人権問題研究叢書」を含め今後の刊行物のデジタル化も検討し、経費の節減を図る。
②事務所の賃料負担の見直し
・支出の中で大きな比重を占める事務所の賃料負担の軽減策を多角的観点から比較検討し、研究機関に認められている税制上の特例も考慮に入れつつ、不動産取得を含む最も合理的で効果的な方途を追求する。
・不動産の購入等を行う場合には、府・市と協議を行いつつ、不動産価格の動向に十分な注意を払い、最善のタイミングを選択する。
③必要な投資と集中的配分
・厳しい財務状況下にあっても、情報発信の強化や事務所問題などのように長期的展望に立って説明責任の果たせるものについては投資を行う。
・厳しい財務状況を踏まえ、事業費はプロジェクト型研究チームに集中的に配分する
(3)基本財産運用会議(仮称)の設置
債券の具体的な商品や事務所の具体的な物件について、購入等の急な判断を求められる場合に意思決定を協議する機関として、三役等による「基本財産運用会議(仮称)」を設置する。なお、後者の基本財産の構成を変更する場合には、府・市と協議を行うものとする。
(4)移行期間中の運営赤字と財源の補充
2020(平32)年度までは、旧体制の一部と新体制とが混在する移行期間に当たり、従来のチーム数を維持せざるを得ないなど、財務運営の見直しが全面的に展開できない結果、一定の財源不足が見込まれるが、これまでの繰越金である一般正味財産期末残高により対応する。
(5)センターの持続可能な運営
「あり方検討委員会」における「今後の収支見通しについて」の議論を通じて、本件ビジョンに基づく各種改革をやり遂げれば、センターの持続可能な運営を実現できるという方向性が示された。今後とも、府・市との連携を密にするとともに、状況の変化に応じて収支のシミュレーションを行い、持続可能なセンター運営を行っていく。
(2017年11月29日))