エキスパートコメント

SDGsと人権

エキスパートコメント No.1
2019年1月15日

(公財)世界人権問題研究センター 坂元 茂樹 

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 みなさんはSDGsという言葉を聞いたことがありますか。2015年、国連が採択した「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」のことです。この中で、国連は2016年から2030年までの間に達成すべき17の目標と169の具体的なターゲットと指標を設定しました。  
 われわれが暮らす地球社会には、現在、さまざまなリスクがあります。たとえば、①エネルギーや資源の枯渇、②生物多様性の劣化、③水や食料の分配のリスク、④急激に増える人口(先進国では急激に減る人口)、⑤地球温暖化に代表される気候変動が、その代表的なリスクといえます。石田秀輝東北大学名誉教授によれば、重要なことはこれらのリスクはわれわれが創り上げたリスクということです。われわれが快適性や利便性を求めた結果、その積み重ねが大きな負荷を地球に与え、地球を限界までに追い詰め、みずからの首を絞めている状態が現在の地球社会といえます。気候変動に伴う大規模災害に接するたびに、われわれは否応なしにそれを実感します。
 ですから、この問題はわれわれの生活とは無縁の国連や国の話ではなく、われわれ一人ひとりの問題です。こうしたリスクを創り上げたのもわれわれなら、それを解決するのもわれわれ一人ひとりだということになります。われわれの生活のあり方が、「持続可能な開発目標」の達成に貢献をもたらすといえます。
 
すでにご承知のように、アメリカのトランプ大統領はアメリカ第一主義を掲げ、2015年に締結され、「世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏2度高い水準を十分に下回るものに抑えること並びに世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏1.5度高い水準までのものに制限するための努力を、この努力が気候変動のリスク及び影響著しく減少させることとなるものであることを認識しつつ、継続すること」(第2条1項(a))を約束したパリ協定からの脱退を表明しました。しかし、米国の企業・自治体・大学の2,500以上が"We Are Still In"(われわれはパリ協定に残る)宣言を行っています。地球環境問題は、個々の国の問題ではなく人類全体の問題であるからです。国だけではなく、企業も地方自治体も大学も、そしてわれわれ一人ひとりが取り組むべき課題だからです。
 先に述べたリスクに対応するために、国連は2030年までに達成すべき17の目標を掲げました。長くなりますが、具体的には次の17の目標です。

目標1 「すべての場所における、あらゆる形態の貧困の解消」
目標2 「飢餓の終焉、食糧安全保障と栄養の向上の達成、持続可能な農業の促進」
目標3 「あらゆる年齢のすべての人に対する健康な生活の確保、福祉の促進」
目標4 「すべての人に対する包摂的、公正かつ良質な教育の確保、生涯学習の機会促進」
目標5 「ジェンダー平等の達成、すべての女性および少女のエンパワーメント」
目標6 「すべての人に対する、持続可能な水源と水と衛生の確保」
目標7 「すべての人に対する、手頃で、信頼ができ、持続可能で、近代的なエネルギーへのアクセスの確保」
目標8 「継続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、すべての人に対する完全かつ生産的な雇用と適切な雇用(ディーセント・ワーク)の促進」
目標9 「レジリエントな(回復力のある)インフラの構築、包摂的かつ持続可能な産業化、およびイノベーションの促進」
目標10 「国内および国家間の不平等の削減」
目標11 「包括的、安全、レジリエント、かつ持続可能な都市および居住区の実現」
目標12 「持続可能な消費および生産形態の確保」
目標13 「気候変動およびその影響と闘うための緊急の行動」
目標14 「持続可能な開発のための海洋、海浜および海洋資源の保存および持続的な活用」
目標15 「陸圏生態系の保護、回復および持続可能な活用の促進、森林の持続的な管理、砂漠化への対処、土壌侵食の防止および転換、生物多様性の損失の防止」
目標16 「持続可能な開発のための平和で包摂的な社会の促進、すべての人に対する公正へのアクセスの提供、あらゆるレベルで効果的かつ責任を伴う、包括的な公的機関の設立」
目標17 「持続可能な開発のための実施手段の強化および、グローバルパートナーシップの再構築」  

 注目されるのは、このSDGsでは、開発目標としては異例の世界人権宣言の精神を引き継ぎ、「誰も置き去りにしない(Leave No One Behind)」との人権の理念が掲げられました。「われわれの世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の「前文」において、「われわれは、人類を貧困及び欠乏の専制から解き放ち、地球を癒し、安全にすることを決意する。われわれは、世界を持続的かつ強靭な道筋に移行させるために緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとることを決意する。われわれはこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う」とし、「人」の項目において、「我々は、あらゆる形態及び側面において貧困と飢餓に終止符を打ち、すべての人が尊厳と平等の下に、そして健康な環境の下に、その持てる潜在能力を発揮することができることを確保することを決意する」と謳っています。世界人権宣言と同様に、すべての人の尊厳と平等が強調され、個人の能力の実現が求められています。  
 1948年12月10日、第3回国連総会で採択された世界人権宣言は、その第1条で、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利において平等である」と規定しています。人間の尊厳とは、人間は、精神、良心、自由意思をもっており、すべての人間は人間らしく取り扱われなければならないという意味です。人は、一人ひとりかけがえのない存在であり、多様な個性や可能性をもって生まれてくるのであり、一人ひとりが人権を守る意識をもつことによって、自分の人権のみでなく、他の人の人権も守ってゆくことができるということです。
 国連は、その後、世界人権宣言の内容を法的に拘束力ある文書にした国際人権規約を採択しました。このほか、歴史的に人権の享受を妨げられてきた人びとが平等に人権を享受できるように、さまざまな差別の禁止、子どもや障害のある人のように特別の立場にある人びとの権利をより具体的に定めるために、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約あるいは障害者権利条約など多くの人権条約を採択しています。それらすべての条約の考え方の出発点になっているのが、世界人権宣言です。
 世界人権宣言は、その前文で、「社会におけるどの個人もどの機関も、この世界人権宣言を常に念頭におきながら、これらの権利と自由の尊重を促進すること、またこれらの権利と自由の普遍的かつ効果的な承認と遵守を確保することをめざして努力すること」を求めています。世界人権宣言の起草にあたって議長を務めたエレノア・ルーズベルトさんは、「人権というのは、必ずしも国家と個人の間のものだけではない。個人あるいはコミュニティのなかでも守られるべきものだ」ということを繰り返し述べていたといわれています。人権はみんなのもので、だれもがわかるもので、だれもが自分のものとして行動する、そういうものでならなければいけないというのです。
 このように、一人ひとりの努力が、人権の世界でも、地球環境の世界でも、また開発の分野でも重要ということになります。われわれの努力の小さな一歩が地球を救い、同時に一人ひとりの人権が大切にされることで、われわれの生活を豊かなものにするということになります。21世紀を「人権の世紀」にするためにわれわれ一人ひとりの努力が求められています。

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