エキスパートコメント

大きく変わろうとする日本のこども施策

2024年04月23日

(公財)世界人権問題研究センター
センター理事長・所長
坂元 茂樹

こどもの権利条約とこども基本法
 1989年、国連は「児童の権利に関する条約(以下、こどもの権利条約)」を採択した。同条約は、国連の加盟国数(193カ国)を超える196カ国が締約国となっている普遍的な人権条約である。日本は1994年に批准したものの、その国内実施法は長い間制定されてこなかった。そうした中、2022年6月にこども基本法が成立した(2023年4月施行)。注目すべきは、こども基本法がこどもの権利条約の国内実施法という性格を超えている点である。
 たとえば、こどもの権利条約は、「児童(こども)」を「18歳未満のすべての者をいう」(1条)と定義するが、こども基本法では「こども」とは、「心身の発達の過程にある者をいう」(1条)と定義している。また、同法では、こども施策の基本理念として、「1 全てのこどもについて、個人として尊重され、その基本的人権が保障されるとともに、差別的取扱いを受けることがないようにする」(3条)として、こどもが権利の主体であることを明記している。さらに、こどもの権利条約がこどもの意見表明権(12条)を認めているのに対して、「4 全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されること」(3条)と規定し、そのように表明されたこどもの意見は尊重されると踏み込んでいる。
 同じく2022年6月の「こども家庭庁設置法」により、内閣府にこども家庭庁が設置された(2023年4月発足)。

こども家庭庁がめざすもの
 こども家庭庁は、児童虐待やいじめなどのこどもの人権問題や少子化対策などを総合的に推進する組織として生まれた。こども家庭庁は、これまでこどもに関する政策や支援が内閣府、文部科学省、厚生労働省など複数の省庁にまたがっており、担当部署の相違やこどもの年齢区分でうまく連携できなかった点を克服しようとの考えに立つ。こども基本法の、こどもの権利条約と異なる「こども」の定義も、そうした年齢区分を克服しようとの考えに基づくものである。そこには、こどもを中心に考え、こどもの権利を守り、こどもと家庭の福祉や健康向上、少子化対策を切れ目無く進めようとの狙いが見える。

こども大綱がめざすもの
 こども基本法では、「政府は、こども施策を総合的に推進するため、『こども大綱』を定めなければならない」(9条1項)とし、「都道府県は、こども大綱を勘案して、当該都道府県における『都道府県こども計画』を定めるよう努めるものとする」(10条1項)と規定する。こうしたこども大綱の案の作成等を行うものとして、こども家庭庁にこども推進会議が置かれた(17条)。
 これを受けて、2023年12月22日にこどもまんなか社会をめざす「こども大綱」が閣議決定された。その大綱の説明資料によると、「こどもや若者の意見を聴いて施策に反映することやこどもや若者の社会参画を進めること」の重要性が強調され、その意義について、「①こどもや若者の状況やニーズをより的確に踏まえることができ、施策がより実効性のあるものになる。②こどもや若者にとって、自らの意見が十分に聴かれ、自らによって社会に何らかの影響を与える、変化をもたらす経験は、自己肯定感や自己有用感、社会の一員としての主体性を高めることにつながる」と説明する。
 この「こども大綱」では、日本国憲法、こども基本法およびこどもの権利条約の精神にのっとり、「①こども・若者を権利の主体として認識し、その多様な人格・個性を尊重し、権利を保障し、こども・若者の今とこれからの最善の利益を図る。②こどもや若者、子育て当事者の視点を尊重し、その意見を聴き、対話しながら、ともに進めていく。③こどもや若者、子育て当事者のライフステージに応じて切れ目なく対応し、十分に支援する。④良好な成育環境を確保し、貧困と格差の解消を図り、全てのこども・若者が幸せな状態で成長できるようにする。⑤若い世代の生活の基盤の安定を図るとともに、多様な価値観・考え方を大前提として若い世代の視点に立って結婚、子育てに関する希望の形成と実現を阻む隘路(あいろ)の打破に取り組む。⑥施策の総合性を確保するとともに、関係省庁、地方公共団体、民間団体等との連携を重視する」という6つの柱を基本的な方針としている。
 今まさに日本のこども施策は大きく変ろうとしている。

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