エキスパートコメント

「こども基本法」に基づいた「こども家庭庁」発足に向けて

2022年10月25日

(公財)世界人権問題研究センター
プロジェクトチーム3リーダー 
山野 則子

 子ども政策の司令塔となる「こども家庭庁」が、2023年4月に発足する。2022年6月に可決された、子どもの権利条約を念頭においた、「こども基本法」に基づく政策の実行が期待される。
 こども家庭庁もこども基本法も画期的なことであることは、いうまでもない。例えば、日本では障害者の権利には「障害者基本法」、女性の権利には「男女共同参画社会基本法」があり、これらの基本法では、障害者や男女の人権の尊重、国や地方公共団体の責務、基本計画の作成、法制上・財政上の措置、年次報告の国会への提出等が定められている。しかし、子どもについては、子どもの包括的な権利や国の基本方針を定めた基本法が存在していなかった。よって、子どもの権利に関する条約に基づいた考えが、十分国民に浸透せず、政策も子どもの権利の視点が十分ではなかったといえる。
 ただし、こども家庭庁は、厚生労働省と内閣府の関係部局を統合し、内閣府の外局として発足する。文部科学省などの他省庁の対応が不十分な場合に是正を求めることができる「勧告権」が与えられるものの懸念はぬぐえない。また、こども家庭庁の議論は、子ども家庭福祉の立場では、児童虐待が中心であるため、社会的養護の子どもたちへのケアが中心である。子どもの権利が尊重されている諸外国の例を見てわかるように、すべての子どもを対象にし、すべての国民の意識を変えることと連動しなければ、絵に描いた餅となり、特別な子どもの問題といった国民の認識を変えることができない懸念がある。それは、すべての子どもをとらえる文部科学省がこども家庭庁に入らなかった懸念ともつながる。
 子ども家庭の諸問題に対応するには、それが顕在化する以前の課題に対し、予防的に取り組むことが肝要である。予防的支援において不可欠な機関間連携は、全く不十分といっても過言ではない。たとえばコロナ禍の調査において、市町村保健部門のうち児童相談所と頻繁に連携を行うとする割合は10%程度、学校との連携については7%程度であり、市町村児童相談・母子相談部門でも、学校との連携が36%程度に過ぎない(山野研究室2021)。兵庫県の「学校と福祉機関との連携に係る実態調査」では、小中学校とそこに在籍する生徒が放課後等デイサービス事業所や特別支援学校との間で、教育支援計画や緊急時連絡体制についての情報共有が行われているのは20%であった。2018年の共同通信社による調査によると、児童相談所を設置する全国69自治体のうち、32の自治体は警察への情報提供に関する具体的な基準を設けていない。連携が言われて久しいが、残念ながらさまざまな事件を止めることが出来ず、連携が機能していない実態である。
 そこで、データ連携から、実際の連携を形成する動きも「貧困状態の子供の支援のための教育・福祉等データ連携・活用に向けた調査研究」(内閣府2022)や「オンライン学習システムのデータ等を活用した教育データの共通項目に関する調査研究」報告書(文部科学省2022)、と急ピッチで動き、たたき台となってデジタル庁に引き継がれた。それらは、こども家庭庁設立のための「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」にも引き継がれている。
 デジタル庁では、「こどもに関する情報・データ連携副大臣プロジェクトチーム」で議論され、ようやく閣議決定文書「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の中で「各地方公共団体において(略)教育・保育・福祉・医療等のデータを、分野を越えて連携させ、真に支援が必要なこどもや家庭に対するニーズに応じたプッシュ型の支援」が謳われ、データ連携の必要性が認識されることとなり、2022年にデジタル庁において実証実験が開始されることとなった。
 データ連携は、一言でいうと、複数の情報源に散在する子どもやその家庭に関する状況や支援内容に係る情報をデジタルデータとして一元管理し、データからシグナルをキャッチし、困難を抱え支援が必要な子どもの発見に繋げる仕組みである。データが網羅的・一元的・横断的に共有されることで、今まで気づけなかった要支援児童の発見、虐待・自殺等重大事件が起きる前の早期発見が期待される。こども基本法の元でデータ連携が実行されることで、子どもの安全・安心を担保した、誰一人取り残さない政策の実現を可能にするこども家庭庁へと発展することに期待したい。

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